連帯保証人といえば、借金のイメージがありますが、それ以外にも保証人になる場面がいくつかあります。例えば、会社の仕入れに対する保証人、賃貸物件の入居時の保証人、病院に入院する時の保証人などです。
今回、賃貸マンション入居の際に連帯保証人になり、トラブルに巻き込まれたという相談がありました。
別れた元カレが失踪。一人で家賃を払い続けたがもう限界!という相談「Aさんは、つきあっている彼氏が転職で上京することになり、賃貸マンションの連帯保証人欄にサインをしてあげました。Aさんは、彼氏の仕事が落ち着けば、いずれ自分も東京へ行って結婚することになるだろうと思っていました。
彼氏は上京当初は真面目に働き、家賃の支払いも順調でしたので、Aさんはサインしたことすら忘れかけていました。
しかし、彼氏は、仕事が合わなかったのか、都会での一人暮らしが合わなかったのか、会社を辞めてしまいました。
そして、マンションの家賃も滞るようになっていたのです。それを知らされていなかったAさんは、賃貸マンションのオーナーから請求書が届いて初めて彼氏が家賃を滞納していることを知りました。
これをきっかけに彼氏とぎくしゃくし始め、別れることになりました。
別れて以降、一切連絡が取れなくなった彼氏は、解約せずにマンションを出て行方知れずになり、連絡が取れません。
Aさんは自分が自己破産をしなければならなくなるのが怖いので、半年ほどマンションの家賃を払い続けていましたが、困ったことにマンションのオーナーはAさんが支払を続けていることと、本人と連絡が取れないことを理由に解約してくれません。
彼氏とも別れているので、これ以上家賃は支払いたくありません。なんとかならないでしょうか」
という相談を受けました。
家賃の連帯保証人には、別居の親族など、同居の親族以外がサインするようにと言われることがよくあります。
同居の家族しかいない人や家族がいない人に対し、親切心でサインをしてあげると、このようなトラブルに巻き込まれることがあるのです。
マンションやアパートなど賃貸物件を契約する時の連帯保証人になってしまった場合、請求を受けたら払うしかないのでしょうか?
保証人からマンションの契約を解除することはできないのでしょうか?
詳しくみていきましょう。
賃貸住宅の保証人とは
賃貸住宅を契約する時、ほとんどの場合、保証人が必要です。
保証人が不要な物件では、敷金・礼金が高かったり、家賃を1度でも滞納するとすぐに追い出される可能性があったりと、借り主にとって不利な契約になっている場合が多くあります。
不動産の借り主が突然連絡を取れない状況になると、貸し主は賃貸料を取れないだけでなく、部屋に残された家財道具などの処分に困る状態になります。また、部屋の明け渡しが済まなければ
新たな借り主を探すこともできないので、貸し主は二重に損失を被ることになります。
もしもの時、その損失を少しでも軽減させるために借り主に加えて保証人をつけるようにしているのです。
賃貸住宅の保証人として、お金を払わなければいけない可能性として一番大きいのは、主債務者が家賃を払わなかった場合に、代わりに家賃を払うことです。
他には、借りた目的物(部屋)を契約の目的以外に使っており損害を与えた場合の損害賠償義務、賃貸契約終了時の現状回復にかかる費用の支払いなどがあります。
当然、借り主がこれらを支払うべきなのですが、借り主が支払わなかった場合には、保証人が請求を受けることになります。
保証人が支払を拒否できるケース
保証人は、主債務者が支払わない時は、代わって家賃を請求される可能性がありますが、支払を拒否できるケースがあります。
それは、「貸し主側に信義則違反があった場合」です。
信義則とは、「お互いに信頼を裏切らないようにすること」です。
ですから、主債務者が家賃を払わず行方不明になっているのに、貸し主から保証人にすぐに連絡せず、わざと何ヶ月分も家賃がたまってから初めて連絡する、などといった状況では、賃貸人は保証人に対し、誠実な対応とは言えませんので、保証人は、請求されても支払を拒否することができるのです。
保証人から契約の解除はできる?
相談者さんのように、支払を代わりにしてあげていると、主債務者と連絡が取れない限り、契約の解除が出来ず、延々と家賃が発生し続けてしまうのでしょうか?
法律上の規定はありませんが、保証人には「特別解約告知権」というものが判例によって認められています。
これが認められるには
②賃借人が著しく賃料債務の履行を怠っている
③賃借人について保証当時予想できなかった資産状態の悪化があった
という3つの条件を満たす場合です。
相談者さんの場合、①は契約が解除されない限り金額も期間も定まりませんから満たしています。②は彼氏が賃料を半年も払っていないので満たしています。③は彼氏が仕事を辞め、無収入になったので満たしています。
以上のことから、相談者さんは、賃貸契約自体を解除する権利があることが分かりました。ただ、口頭で解除を申し入れるだけでは、不安だとのことで、弁護士に依頼し、「内容証明郵便」という形式で作成された文書を送ることで、解除し、これ以上の(将来の)家賃の発生をストップさせることができました。
残された家財道具の処分はどうする?
賃貸住宅の借り主には、解約時に現状回復義務があります。もちろん、主債務者が支払えない場合は、連帯保証人もこの義務を負います。
しかし、通常であれば、原状回復のために敷金を支払っているはずです。
リフォーム代などには、まずは、敷金がよほどのゴミ屋敷になっているなどの場合ではない限り、常識の範囲内の負担で済むでしょう。
保証会社が保証人になるケースも増えている
賃貸住宅の保証人を用意できない場合や、トラブルに備えて、不動産業者は近年、保証会社を保証人につけるケースが増えています。
保証会社が保証人になる場合も、個人が保証人になる場合と基本的には同じで、主債務者が支払えなくなった場合は、保証会社が賃貸会社に対し、家賃を肩代わりし、求償権を得て、主債務者に対し請求します。
もちろん個人が保証人として支払をした場合も、求償権を得ますので、当然、主債務者に対し請求をすることができます。
賃貸住宅の保証人で気を付けること
賃貸住宅の保証人にまだなっていない場合は、次の2点を覚悟して、保証人になる必要があります。すでになってしまっている方も、知らずになっている場合が多々あります。
賃料の値上げ
賃貸住宅の保証人として請求を受けることになった際、契約当初より賃料が値上がりしている可能性があります。
民法では、保証契約の締結後に主債務が重くなったとしても、保証人はその差額は負担しなくても良いことになっています。
しかし、家賃については、増額があり得ることは予測可能であるとして、その値上げが近隣の相場と比べて不相当に大きくなければ、保証人が増額分も負担することはやむを得ないことなのです。
ですから、保証人になる際には、そのことも念頭に置いておかなければいけません。
賃貸契約を更新すると、保証契約も更新されるのか
賃貸マンションなどは、通常2~3年ごとに契約更新があるケースが多くあります。
その際、連帯保証債務も同時に更新されると、一般的には考えられており、そのような判例(平成9年11月13日判決)もあります。自動的に更新されないケースとしては、契約更新時に連帯保証債務が自動更新されない旨の約款、特約が契約書に記載されているケースです。
保証人にとっては、保証する期間が長期にわたる可能性があるので、賃貸住宅の保証人になる場合は、慎重を期す必要があるのです。
まとめ
賃貸住宅の保証人になることは、借金の保証人になるのと違う点がいくつかありました。
特徴として大きいのは、賃貸借の契約更新の際に、保証人も更新されてしまうことです。
しかし、もし、主債務者が支払えず、保証人に請求が来たとしても、多額になるまで請求がなければ信義則違反として支払を拒否することができますし、保証人から賃貸借契約の解約を申し入れることができますので、支払が永久に続くという自体にはならないことがわかりました。
借金の保証人よりは大丈夫そうに感じる賃貸住宅の保証人ですが、やはり、保証人になるということは、リスクがつきものです。
保証人を頼まれた際には、自分にどのような不利益があり得るのかを見極めてから慎重にサインすべきなのです。