お金の貸し借りなどで、債権(お金を請求する権利)と債務(お金を支払う義務)の関係性ができあがった時、お互いにサインとハンコを押した契約書を作ることが一般的です。
しかし、その契約書の作成方法の一つに、「公正証書」という書類があります。
これにも通常の契約書と同じように保証人の名前を載せることができます。
このような相談がありました。
その公正証書に連帯保証人として名前を書かせてもらえないかと息子から言われました。
嫁のやり方はひどすぎるんじゃないかと不満です。
しかし、息子は裁判せずに早く解決したいそうなので、渋々ながら応じようかと思っています。
公正証書に連帯保証人として私の名前が載ると、どういう影響があるのでしょうか。形だけだからと息子は言いますが、大丈夫でしょうか。
公正証書とは
公正証書とは、公証役場で公証人が作成した公文書です。
遺言書や離婚の養育費などで公正証書を作るケースがよくありますが、お金の貸し借りの契約書など、いろいろな契約書を公正証書にすることができます。
公正証書は、契約書や遺言書を、法律のプロである公証人が証明した文書なので、法律的に問題のない内容になっています。
公正証書の原本は公証役場で保管される(原則20年間)ため、裁判になった時の証拠能力が高いのが特徴です。
仮に公正証書をなくしても謄本を請求することで、原本と同じ効力のある書類を再発行することができます。
強制執行認諾条項
契約書を公正証書にする大きな特徴の一つに、公正証書に「強制執行認諾条項」を定めておけば、裁判をしなくても給料の差押えなどの強制執行がすぐにできるという点があります。
例えば金銭の貸し借りの契約書を公正証書にし、「強制執行認諾条項」をつけた場合、お金を貸す側からすると支払が滞ったら簡単に強制執行できる、というメリットになるのです。
今回の相談者さんの場合、離婚による慰謝料と養育費の金額は分かりませんが、妻は、相談者さんの息子がきっちりと支払をしてくれるかどうか怪しいと思ったのでしょう。
慰謝料と養育費を満額回収するために、法的に間違いのない公正証書を作り、さらに支払が滞った時のために連帯保証人も付け、「強制執行認諾条項」をつけておけば完璧です。
相談者さんの息子が支払を滞った時に、元妻は、すぐに本人の給料を差押えたり、連帯保証人に請求したりすることができるのですから。
連帯保証人も公正証書の当事者
離婚の際の公正証書に連帯保証人として記載されるということは、相談者さんは、元妻と連帯保証契約を公正証書で結んだということになります。
ですから、相談者さんも公正証書の作成の当事者ということになります。そのため、公正証書を作成する際に、元妻、息子と共に相談者さんも公証役場まで出向く必要があります。
もし同行しない場合でも、当事者であることに変わりありませんから、代理人が委任状を持参する必要があります。
また、「強制執行認諾条項」を付ける場合、連帯保証人にもその効力が及ぶため、連帯保証人も給料などの差押えを受ける可能性があります。
それに対する同意も必要ですから、公正証書がどのようなものなのか連帯保証人もしっかり理解し、差押えを受ける可能性があることを覚悟して、同意する必要があるのです。
連帯保証人も裁判をせずに強制執行される可能性がありますから、それが嫌な場合は同意をしてはいけません。
どんなに口約束で「迷惑はかけない」「形だけ」と言われていようが、公正証書は法的に間違いない書類なのですから、覆すことはほとんど無理だと言わざるを得ません。
債権者が業者の場合
さて、今回の相談者の場合は、息子の離婚で発生した慰謝料と養育費が、息子の債務であり、その連帯保証人を依頼されたというケースでした。
しかし、公正証書は、通常のお金の貸し借り(金銭消費貸借契約)においても作成することができます。
その場合にも、貸金業者から公正証書を作成したいと言われる場合があるかもしれません。
しかし、貸金業者(消費者金融や商工ローン)からの借入では、貸金業法によって保証人に対して過酷な取り立てを防ぐため、規制がなされています。
1つ目は、貸金業者は主債務者や保証人から「強制執行認諾条項」付きの公正証書の作成を公証人に委託するための委任状をとることができない、という規制です。
これによって、強引に白紙委任状を書かせて公正証書を作ることを防いでいます。
2つ目は、貸金業者が「強制執行認諾条項」付きの公正証書を作る際には、その効力について書面で事前に説明しなければいけない、という規制です。
裁判をせずに強制執行ができるというのは、債権者にとっては非常に大きなメリットですが、債務者や保証人にとっては、非常にリスクが大きい契約です。
そのため、貸金業者との契約では、このように法律で規制を設けているのですが、「強制執行認諾条項」付きの公正証書を作ること自体は禁止していませんので、うっかり契約してみたら、この公正証書だったということにならないように、お金を借りる際は、充分注意が必要です。
まとめ
形だけだと言われても安易に保証人になるのは大変リスクのあることです。
さらに「強制執行認諾条項」付きの公正証書を作る場合は、裁判をせずに給料を差し押さえられる可能性が負債を持っている本人のみならず、保証人にまで及んでしまいます。
これらのことを相談者さんにお伝えしたところ、「息子や孫は大事だが、連帯保証人になるのは断ろうと思います」と結論を出されていました。
また、「息子にも公正証書の持つ意味をちゃんと分かって作ろうとしているのかを確かめようと思います」ともおっしゃっていました。
金銭の支払いを約束する公正証書は、通常の契約書より拘束力が強く、一度作ってしまうと撤回することが、ほとんど不可能となってしまいます。
ですから、相手が貸金業者であるか、それ以外の一般の方であるかに関わらず、公正証書を作成する、またそれに保証人として名前を載せるということは非常にリスクがあります。
できることなら、そのようなリスクの高い行為はやめてほしいと言いたいところですが、保証人として名前を記載する場合には、充分に注意し、内容に納得できた場合のみ、覚悟して公正証書を作成してください。
もしも、内容に少しでも分からないところや、不安なところがある場合は、弁護士など法律の専門家に内容を見てもらってからにしてください。