主債務者に代わって保証人が返済すると、「求償権」を得ます。
聞き慣れない言葉なので、どういうものかピンときませんよね。
しかし、わからないからといって放っておくと、大損をしてしまう可能性があります。
「求償権」について次のような2つの相談を受けました。一見関係がなさそうな2つの相談ですが、どちらも「求償権」に関する相談でしたので、2つの例を見て下さい。
長男の私は一家の長のつとめだと思い、その度に借金の連帯保証人になってあげてきましたが、そろそろ限界です。
すでに弟のために支払った連帯保証債務は1000万円に達しました。
知人から「あなたは「求償権」を得ているから弟に請求した方がいい」とアドバイスを受けました。求償権とはなんですか?弟からお金を返してもらえるということでしょうか?」
私(妻)は連帯保証人になっていたため、私へ請求が来るものと思い待っていましたが、銀行から私への請求書は届きませんでした。
その代わり、保証会社から「求償権」という名目で私宛に請求書(代位弁済通知)が届きました。これはどういうことなのでしょうか?」
全く関係がないように見える2つの相談ですが、同じ「求償権」という言葉が出てきましたね。
求償権とは何なのか、詳しく説明します。
求償権とは
保証人が主債務者(元の借り主)の代わりに債権者(貸し主)にお金を返した時に、保証人が今度は、債務者に代わって主債務者に「代わりに返済したお金を、私に返せ」と請求できる権利のことを、「求償権」と言います。
この求償権の存在を知らなかったり、お金がないから返済が滞った主債務者から返してもらえるはずがないと自己完結したり、身内だから請求しづらいなどの理由から、債権者に請求をしないケースがよくあります。
しかし、相手が先ほどの相談例1のように、兄弟などの身内であっても、求償権を請求する権利はもちろんあります。
一括返済が難しくても、分割払いならできるかもしれません。
また、求償権にも時効がありますから、請求しなければ10年(商法の取り扱い案件の場合は5年)で時効になってしまいます。ですから、勝手にあきらめて請求しないのはもったいないのです。
連帯保証人が複数人いる場合
債権者は、連帯保証人が複数いる場合、どの連帯保証人に対しても債務全額を請求できます。
もし、連帯保証人のうちの一人が主債務者に代わって全額支払をした場合、主債務者への求償権に加えて、その他の連帯保証人に対しても、求償権を得ます。
例えば会社の借金について社長だけではなく、他の取締役も連帯保証人になるケースがあります。
このような場合、3人連帯保証人がいたとすると、そのうち1人が全額返済したら、残りの2人に3分の1ずつ支払を求めることができるのです。
うまく求償権を行使して、他の連帯保証人から回収できれば、連帯保証人としての負担は3分の1で済みます。
ただし、求償権を得たからといって必ずしも主債務者から全額取り返せるわけではないですし、自分以外の連帯保証人に資力がなければその人たちからも支払を受けることは難しいということは頭に入れておかなければなりません。
求償権を請求されるケース
相談例1のように、連帯保証人が求償権を得るケースがある一方で、連帯保証人として求償権を請求されるケースもあります。
上で説明したように、複数連帯保証人がいる場合、自分以外の連帯保証人が全額の支払いをした場合は、その人が求償権を得て、自分が請求される立場になることもあり得ます。
また、相談例2のように、主債務者に代わって債権者にお金を払ったのが保証会社だったら、その保証会社が求償権を得ることになります。
求償権を得るのは、人間である必要はなく、保証会社・債権回収会社などといった法人でもいいのです。
先の相談例2の相談者さんの妻は、保証会社から一括弁済のみとの条件付きで求償権を請求されました。
実はこの後に保証会社は、「うちは銀行じゃないから一括弁済しか受け付けられない、一括弁済が無理ならどこかでローンを組んで支払ってくれ」と言って来ました。
相談者の妻は、銀行から請求があって、今まで通り分割でローンを返済できると思っていたのに、保証会社から一括請求を受けるのは納得がいかない、と不満をもらしていました。
しかし、保証会社も連帯保証人の一つですので、どの連帯保証人に対して請求するかは、債権者に選択する権利があります。
結局、相談者の妻は、保証会社からの請求を支払うしかありませんでした。
妻は一括弁済するために、別の銀行でローンを組めるか問い合わせましたが、結局パート社員の妻ではローンが組めず、抵当権に入っていた自宅は保証会社によって競売にかけられてしまいました。
泣き寝入りせずに回収する方法
相談例1の場合、1000万円も保証債務を支払ってあげているのに、家族だからといって泣き寝入りするのはもったいなすぎます。
もし、弟が自己破産していれば、自己破産手続の中で裁判所に債権届出を行っておけば、配当があった場合に、少額かもしれませんが配当に加わることができます。
弟に財産や給料、不動産などがあれば、裁判を起こし、それらの財産を差し押さえることもできます。
また、兄ではなく、親が連帯保証人として代わりに支払をしてあげたのであれば、遺言書に「弟に生前○○万円を連帯保証人として代わりに払ってあげたから相続からその分を差し引く」と「特別受益」の記載をしておくことで、相続時に弟へ渡る財産を減らすことができます。
求償権を得た場合は、必ず主債務者に通知を
主債務者が返済を滞ったことにより、連帯保証人に連帯保証債務の請求が来ました。その場合、連帯保証人はそれを払う前と払った後に、主債務者へそのことを通知する義務があるので注意が必要です。
これは、二重払いや、主債務者の抗弁権(すでに支払い済みモノや、時効など、払わなくて良いと主張する権利)があるのに、支払をしてしまうことの不利益(時効の中断など)を避けるために必ず必要なことです。
これを怠ると、主債務者へ求償権を請求できなくなる可能性が出てきますので、注意が必要です。
また、すでに支払をしてしまっており、主債務者への通知をしていないという場合は、早急に行う必要があります。
口頭では言った言わないになってしまいますので、手紙(書留)で送るのが確実です。
まとめ
「求償権」とは、主債務者が支払えなくなった際に、連帯保証人が代わりに支払をしたら、主債務者や他の連帯保証人に対して、請求をすることができる権利のことでした。
連帯保証人が複数いる場合(保証会社がついている場合も含む)は、他の連帯保証人が求償権を取得し、自分が請求される側になる可能性もあります。
求償権を取得した場合は、請求をせずにいるのはもったいないです。また、請求されて支払う場合は正しい手順を踏まないと主債務者に請求できなくなる場合があります。
求償権を得た場合も、求償権を請求された場合も、一度弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談することをおすすめします。その後で対処しても遅くありません。