企業に入社する際、「身元保証人」のサインをもらうよう言われる場合があります。
形だけだからと、気軽にサインする場合もあるかもしれません。
しかし、いつまで続くのか?何かトラブルに巻き込まれる可能性はないのか?と、あとから辞めたくなる人もいるでしょう。辞めたくなったら辞められるのでしょうか?辞める場合はどうしたらいいのでしょうか?
このような相談がありました。
横領です。
その子はもちろん解雇され、とてもすぐに返済できる金額ではありません。そのため、私のところに請求が来たのです。
驚いて、身元保証人の契約書を見てみると、「故意もしくは過失により会社に損害を与えた場合は、保証人は被用者と連帯してこれを賠償する」と書いてあったのです。これを見ると私は払わなければいけないようですが、払わなくてすむ方法はありませんか?」
突然このような請求がくるとは、さぞ驚いたことでしょう。しかし、身元保証人を第2連絡先くらいに軽く考えていると、痛い目を見る可能性があります。形だけのつもりが、れっきとした「連帯保証人」だったのですから。
相談者さんはお金を払わなければいけないのか、詳しくみていきましょう。
身元保証人とは
就業先の企業から提出を求められる「身元保証人」は、就業する本人が真面目に働くことを保証するもので、企業が安心して雇用するのための書類です。
身元保証人は、通常、実家の両親や近しい親戚が記名するケースが多いと思いますが、両親が仕事をしていなかったり、すでに亡くなっていたりして記名できない場合や、企業側から両親以外の人を指定される場合など、両親以外の人が記名するケースももちろんあります。
身元の保証には、人物保証と金銭的保証の2つの側面があります。
金銭的側面とは、雇用した社員が損害を発生させたときに、その社員に代わってお金を払ってもらう(損害賠償)という意味での保証。ですから、無収入の人は、身元保証人になることができません。
次に、人物保証とは、これから働く本人がその企業に就職する適性の持ち主であることを保証するという意味です。
最近では、本人が精神疾患になった時に、本人に代わって手続などをする人、という意味でとらえられています。
両親ですと冷静な話し合いができない場合があるため、一人は親でも良いが、もう一人は親以外の親戚や知人にすることという制限がある場合があるのです。
身元保証期間は3年から5年
身元保証人になったら、本人が勤務している間は永久に保証人でいなければいけないのかというと、そうではありません。
身元保証人契約は、期間の定めがなければ効力は3年間です。また、契約書に定めることができる上限も5年間と決まっています。
永遠に身元保証しなくてはならないっていうのは重過ぎる負担なので、このように期限に上限が設けられています。
上記の相談者さんの場合、親戚の子の横領が発覚したのは入社して4年目のことでした。
身元保証人になった時の契約書に、期間が書かれていなければすでに保証人ではなくなっている時期にあたりますので支払う必要はありません。
しかし、契約書に5年間と書かれていれば期限内なので、支払う義務がある時期です。
なお、期間が5年以上(6年や10年など)と契約書に記載されていたとしても、法律で定められている上限は5年ですから、5年を超えている期間については更新の手続きを取っていない場合は効力はありません。
自動更新の特約をつけることはできませんので、会社は、5年を超えても身元保証人が必要ならば、その際にもう一度契約書を交わす必要があります。
この期間中に、被用者(雇用されている社員本人)が故意(わざと)・過失(うっかり)を問わず、事故や横領で会社に損害を与えた場合、身元保証人も、被用者と連帯して、損害賠償金を支払う必要があるのです。
もしも、途中で身元保証人を辞めたいと思ったら、このタイミングがベストです。
3年、もしくは5年が過ぎた時点で、身元保証人を更新をしないと拒否することで、身元保証人から外れることができます。
被用者の契約内容や職務内容が変わった場合
「身元ノ保証ニ関スル法律」3条2項では、『被用者(雇用されている社員本人)の任務や任地の変更で身元保証人の責任の加重、被用者に対する監督困難が生じるのに通知しない場合』、身元保証人からの損害賠償は不要もしくは、減額されることになっています。
例えば、今回の相談者の例のように、工場勤務から経理課へ異動になった時に、本来ならば身元保証人にその旨を連絡しなければいけなかったのです。
しかし、身元保証人である相談者さんには親戚の子が部署異動したことは知らされていませんでした。
これを主張することで、相談者さんは請求された1000万円を支払わずに済みました。
工場で機械を触るよりも、経理課で現金を触る方が損害を発生させる可能性がアップすることは簡単に想像できます。
つまり、身元保証人の責任の加重が増える可能性がアップしたのに、会社は身元保証人に連絡をしなかったということは、会社の落ち度であるということなのです。
他にも転勤で身元保証人の居住地から遠方に移動し、簡単に注意したりすることが難しくなるのに身元保証人に伝えていない、というケースも同様に会社の落ち度との判断となります。
身元保証人の保証責任額の減額
また、上記のように身元保証期間が過ぎていたり、会社から被用者の雇用内容について連絡がなかったりという会社の落ち度がなかった場合でも、身元保証人が損害賠償金を被用者本人に代わって支払う金額は減額される可能性があります。
それは、身元保証人は被用者と24時間一緒にいるわけでも、一緒の職場に勤務しているわけでもないため、身元保証人が被用者が会社に損害を与えないように監視し続けるのは現実的に不可能だからです。
ましてや、親でもなければ同居していない場合がほとんどですから、身元保証人は、被用者本人がどのように働いて、どのように生活しているかを知らないケースというのが実態です。
逆に企業には従業員の監督責任があります。ですから、損害の全てが被用者一人の責任とは言い切れないのです。
それらの事情を考慮すると、実際に合理的な金額として身元保証人が支払わなければならない金額は2~7割程度と言われています。
ですから、もし、身元保証人が請求を受けることがあった場合は、言われるがままに支払うのはなく、弁護士に相談し、減額の交渉や、裁判などで争うことも選択肢に入れるべきなのです。
まとめ
最も大切なことは、身元保証人として請求を受けたとしても、焦って支払をせず、本当に自分がその金額を支払う義務があるのかを精査することが第一です。
身元保証人の効力は期限の定めがなければ3年、最長5年間ですので、その期間を過ぎていれば支払う必要はありません。
また、その際に更新を拒否すればその時点で身元保証人を辞めることができます。
そして、被用者の雇用状況が変わったことを知らなかった場合も支払う必要がありません。
もし、そのどちらにもあてはまらなくても、会社の監督責任がありますので、大幅に減額させられる可能性が高いです。
まずは、焦らず、会社から来た請求書を持って、法律の専門家に相談してください。