連帯保証人になり、実際に請求が回ってきたとしても、すぐに大金を用意するのはなかなか大変です。
しかし、たまに、自らも債権者に対し、債権を持っているケースがあります。
例えば、零細企業の社長同士が、お互いに連帯保証人になりあっていたり、お互いにお金を融通しあいながら経営を乗り切っているなどのケースでは、お互いに反対の債権を持っている場合があります。
また、相続によって債権を取得するケースもあります。
このような相談者さんの例がありましたので、ご紹介します。
私は、甥っ子のために連帯保証人になってあげました。
ところが、今年、甥っ子の事業が失敗し、私がA氏から連帯保証人として請求を受けることになったのです。
残金は200万円ですが、A氏は私に、「お金を返せ」としつこく、「返さないと遅延損害金がどんどん増えるぞ」とも言ってきており、実際に総額でいくら支払えばいいのかわからず困っていました。
そんな中、父親が急逝し、5年前に父がA氏に対して200万円貸していたことが分かりました。
A氏から父に対して返済がなされた様子はありませんでした。
相続人は私だけです。
早くA氏への支払もしなければいけないとは思いますが、父の相続税を支払わねばならず、手元にまとまった現金がありません。
父からA氏への債権(貸した200万円)と、甥っ子の保証を相殺することはできませんか?
保証人として請求されて、現金が用意できなくても、反対債権を持っている場合、相殺をすることができるのでしょうか?
詳しくみていきましょう。
連帯保証人からの相殺は可能
連帯保証債務の請求を受けた時、債権者に対して、反対の債権を持っていた場合、相殺することができます。
ただし、相殺する場合は、
- 債権の種類が同じ種類
- ともに弁済期にあること
- 相殺禁止の特約がないこと
が条件です。
相殺できる条件①「債権の種類が同じ」
債権の種類にもいろいろな種類があります。この債権の種類が同じなら、相殺できます。
お金の債権(貸し借り)なら、お金の債権同士で打ち消しあいましょうってことです。
今回の相談者さんのケースでは、保証人としてお金を請求されていることに対し、Aさんに貸金を請求する、ということですから、両方とも金銭債権ですから、「債権の種類が同じ」です。
相殺できるということです。
相殺できる条件②「ともに弁済期にある」
2つ目の条件の「ともに弁済期にある」とは、両方の債権とも、支払をするべき期限が過ぎている、という意味です。
今回の相談者さんのケースでは、甥が期限を過ぎてもお金を返さないので、保証人に請求がきたのですから、弁済期にあると言えます。
反対債権となる、父親から相続で得たAさんに対する貸金請求権については、契約書に返済期限を定めていませんでしたので、請求した時点から弁済期となります。
そのため、ともに弁済期にあるという条件も満たします。
相殺できる条件③「相殺禁止の特約がない」
契約書に相殺禁止の特約が明記されている場合は、相殺することができません。
今回の相談者さんの場合も、特に契約書に相殺禁止が書かれていませんでしたので、この条件もクリアしました。
上記、3つの条件をクリアしましたので、相談者さんは、債権の相殺を主張することが可能であると分かりました。
相殺の仕方
相談者さんから相殺を主張する為には、まず、Aさんに対し、父の相続人として200万円の貸金の返還を請求しなければなりません。
相談者さんの父親の貸金は弁済期の定めのない貸金だったため、請求をしない限り、弁済期が到来していると言えないからです。
貸金の請求書は、「内容証明郵便」という形式で書類を作り、送るのが良いでしょう。今後、もし裁判で争うとなると、証拠が必要となるからです。
内容証明郵便を出す場合は忘れずに「配達証明付き」にしましょう。
「配達証明付き」にすると、届いたことを証明するハガキが郵便局から送られてきますので、それが裁判時の証拠となります。
相談者さんから、Aさんに貸金請求を行い、すでに返済がなれていなければ、相殺を主張する書面を送り、相殺することができます。
この場合も、口頭やメールではなく、「内容証明郵便」を使いましょう。
「内容証明郵便」での請求書の書き方は、インターネット検索で調べることが可能ですが、内容に不備がないようにするためには、やはり弁護士や司法書士といった専門家に依頼した方が間違いありません。
交渉をせず、書類を作成してもらうだけなら、裁判などを頼むよりぐっと費用も抑えられます。
ケチって間違いだらけの請求書を送るくらいなら、少しお金を払って正しい請求書を送ることをおすすめします。
連帯保証人は遅延損害金も払わなければいけないのか
さて、うまく200万円は相殺できた相談者さんでしたが、Aさんは遅延損害金を請求してきていました。
民法では、連帯保証人が連帯保証契約をする時に特約などをつけていなければ、元本の他それに付随する利息・遅延損害金・違約金・損害賠償その他すべてのもの(従たるすべてのもの)を保証すると規定されています。
そのため、連帯保証人は、貸し主(債権者)から、元金とともに利息や遅延損害金もあわせて請求を受けたら、それも支払いをしなければいけません。
ただし、利息は利息制限法に定める利率の範囲内、契約時に取り決めがなければ年5%以内と決められています。(商法の取り扱いとなる債権では6%)
もし、連帯保証人として貸金請求裁判を起こされた場合には、損害賠償金として、その費用の支払いなども、保証債務に含まれることになります。
今回の相談者さんの場合は、Aさんから当初「遅延損害金を払え」と口頭では言われていましたが、契約書にその表記がなく、実際に具体的な金額の提示はありませんでした。
しかし、後々になってまた請求されることのないようにしたいとの相談者さんの意向で、Aさんとの交渉し、年5%の遅延損害金を支払いました。
保証人の求償権
このように相談者さんは、手持ちの現金をほとんど使うことなく、債権を相殺することによって、解決することができました。
相談者さんは、負債の残金200万円全てをAさんに対して支払ったので、Aさんから「求償権」を得ました。
今回、相談者さんは、Aさんと自分が持っていた債権を相殺した結果、Aさんから、甥っ子に対してお金を請求する権利を得ました。これを、専門用語で「求償権」と言います。
このように、相談者さんは、甥っ子に請求をすることができるので、実際に甥っ子からゆっくりでも支払をしてもらえば、払いっぱなしで損をする、ということを避けることができます。
なお、もし、他に連帯保証人がいた場合は、他の共同保証人に対しても、各人の負担部分を求償金として請求することができます。
親戚だから、親友だから、などの理由で求償権を行使しないのはもったいないことです。
求償権も時効が存在します(一般的には10年で時効)ので、求償権を得た場合には、早急に請求を行いましょう。